気晴らしの旅路 縦横切替
 朝から電車に乗って出掛けた。ターミナル駅に一度出て、私鉄に乗り換え、数駅行ったところが目的地だ。
 駅を出ると、自分と同じ目的らしき人たちが同じ方向に向かって歩いていたので、地図を出さずに済んだ。汗をぬぐいながら坂道を上っていく。
 目的地は大学。自分が通っている大学以外の大学に入るのは、受験のときを除けば初めてだ。この大学は受験もしていないので、本当に初めてだ。
 表に出された看板を確認し、構内に入る。受験番号に応じて部屋が指定されていたので、受験票を取り出して確認した。三階の階段前の教室だった。
 教室の中で最後の単語チェックをして試験の時間を待つ。TOEICの試験は受けたことがあるのだが、TOEFLの試験は初めてなので、少し緊張する。ウェブ上での試験でもよかったのだが、やはり紙でないと落ち着かないので、ペーパーテストを選択したのだが、緊張感はこちらの方が高いと思う。落ち着かない。
 落ち着かないまま試験に突入した。周りの人間の鉛筆の音は止まらない。自分以外の人間は全てわかっているような錯覚に陥るが、そんなことはない。そんなことはないのだ。試験会場だとどうしても、自分以外の人間が頭がよさそうに見えてしまう。
 頭を振る。邪念はいらない。とにかく問題を解く。
 時間はすぐに終わった。試験時間は三十分だったが、前後で一時間半くらいかかってしまった。
「さて、どうしたものかな」
 試験会場から駅に向かいながら思う。こっちの方にはなかなかくることがない。折角だから何かを見ていきたいところだが、ここは住宅地のど真ん中。見物するところは何もない。ターミナル駅に戻って買い物でもするか……と思いながら路線図を見上げた。
 ターミナル駅とは逆方向に進むと、海があることに気付いた。どのくらいの時間がかかるかわからないが、ともかく、海だ。ここ何年も海を見ていないよなあ、と思い始めたら、どうしても海に行きたくなってしまった。
 各駅列車しか止まらない駅だった。電車に乗り込んだが、まったく海に着く様子がない。いつまでたっても住宅地を、出ない。
 飲み物も、食べ物も何も買わなかったのはまちがいだった。ほの温かい座席は眠気を誘う。うとうとしているうちに、住宅地から畑が多い場所に入っていた。駅名を見ると、海まであと少しだった。
 ……あと少しが長かった。
 海に近い駅におり、ともかく食べものを探す。近くにあった定食屋で刺身定食を食べて、改めて海に向かう。もう夕日が落ちようとしていた。
 橙の光が、水面にきらきらと映っていた。
 夕日はあっと言う間に海に沈んで行った。夜はあっと言う間にやってきた。星がまたたき、灯台の光が遠くに見えた。
 夏の、熱い夜風が吹きつけてくる。海の家からは大きな音楽が聞こえてくる。
 英単語で一杯になっていた頭の中が、すっきりと落ち着いていくようだった。
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