罪人の故郷 縦横切替
「給食費が盗まれた」
 臨時の学級会が開かれると聞いて、なにやらおかしいと思った。昼休みに図書室で集まれという手紙が授業中に流れた。何故図書室に、何故昼休みに、と思ったが、そういうことだったらしい。
 学級委員長の松下が、神妙な顔つきで言った。ひじを机に乗せ、指を組んだ姿勢が、緊迫した状況を匂わせる。
「なんでわかったんだ」
「それは、俺から……」
 多田が席から立ち上がった。
「給食費は俺のものだ。休み時間が終わったあと、ふとランドセルを見てみたら、なくなっていたのだ」
 みんなが口々に、まさか、まさか、と言った。
 電気もついていない薄暗い図書室は、正に今の俺たちの心境を表していると言ってもいいだろう。窓の外から聞こえる楽しげな声が、余計に俺たちを滅入らせる。
「静かに。ここは図書室だぞ」
 松下が声は小さくても響く声で言った。静まったころを見計らって、多田が口を開く。
「俺としては、事を大きくしたくない。お前らだって、担任のやつが犯人探しと称して俺たちを放課後、教室にとどめようとするのは避けたいだろう」
「避けたい」
「そりゃあ、避けたい」
「あいつ、何も悪いことをしていないやつも含めて、無理矢理反省の言葉を全員に言わせるからウザい」
 臨時の学級会参加者は口々にそう言った。俺も言った。
「だからこの問題は、ここで全て解決し、何もなかったこととしたい」
 全員が首を縦に振った。利害が一致したのだ。
「だが、犯人を探そうにも、どうしたらいいのか……」
「それについては、岩村」
 松下に呼ばれた岩村が立ち上がる。
「俺たちは二時間目と三時間目の間の休み時間にサッカーをした」
「したな」
「ああ、した」
「その前には多田の給食費はまだランドセルの中にあった。と、いうことは、二時間目と三時間目の休み時間に犯行が行われたということになる」
 一気に犯行時刻がしぼられたことで、全員がざわつく。
「それから、犯人の候補から他の学年の人間と女子は除外する。いくら教室に鍵がかかってなく、出入り自由とはいえ、他の学年の人間が教室にいれば嫌でも目立つ。男子のランドセルを触っている女子もだ」
「まったく不本意なことに、犯人は、我々男子の中にいるということだ」
 さっきまでのざわつきが嘘のように静まり返った。犯人はこのクラスの男子十八人の中にいる。発起人となった松下と被害者の多田、説明を始めた岩村を除くと十五人になる。俺も除けば十四人だ。緊迫感が漂う。
「俺だって、学級委員の端くれ……クラスの中に犯人がいるなんて、言いたくない。しかし、これは本当のことなんだ」
「証拠を出せ! 証拠を!」
 飯島が立ち上がり、叫んだ。隣の席に座っていた俺は飯島をなだめて椅子に座らせる。
「飯島の言うことはもっともだ。証拠を出そう」
 全員がつばを飲みこんだのがわかった。
「これだ」
 松下の指示で、多田が机の下からあるものを取り出した。それは、俺たちが見れば犯人が一目瞭然となる証拠であった。
「そ、それは……あいつ!」
 島崎は絶句した。俺も、みんなも、絶句した。二の句が継げなかった。
 静まり返った図書室の沈黙を破ったのは、図書室の扉を開ける音だった。
「何やってんの」
 女子たちが図書室に入ってきた。女子のリーダー格の伊東が、いかにも下らないものを見てしまったかのような目でこちらを見る。
「いや、別になんにもしてないけど」
「給食費、とか聞こえてきたけど」
 聞こえていたのか! 俺たちはお互いに気まずそうに視線を送る。
「どうせまた、馬鹿なことやってたんでしょ」
「馬鹿なこと? 俺たちは真剣にやってるんだぞ。給食費を盗んだ犯人を割り出そうとしているのだ」
 伊東は盛大にため息をついた。
「うちの学校、給食費は振込でしょう」
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