紙一重の馬鹿 縦横切替
 なんだこれは。
 朝起きて、寝ぼけ眼で台所に向かうと、台所に血痕が残っていた。
 先に言っておくが、俺は別に自分の部屋で殺人を犯したわけではない。昨日の夜に鼻血を出したわけでもなければ、包丁で指を切ってしまったわけでもない。
 ぽとり、ぽとり、と落ちたのだろう血は、台所の脇にある玄関まで続いていた。よりによって俺の革靴の上にまで血が落ちている。新しい靴なのに……なんてこった。
 人が一人座れるくらいしかない三和土の向こうに血痕が続いていると思われるが、ドアノブには血痕はなかった。ということは、指を切ったわけではないのかと妙に冷静に思ってしまう自分が恨めしい。
 ドアを押し開けようとすると、何かが扉につっかかって開かなかった。思いっきり押して開けてみると、何かを引きずった音がした。
 なんとか自分の体の厚み分だけ開けて外に出てみると、扉の裏側に人が倒れていた。
「何やってんだよ、お前」
 俺の言葉に全く反応はない。
 怪我をしていないはずの指は真っ赤に染まっている。右手の人指し指は言葉を書き終わったところで力を失い、伸びていた。
 書いてあった言葉はただ一つ。
「トマトジュース」
 振り返って血痕を見てみれば、確かに、血にしては濃度が濃すぎる。コレステロール値が高い人はひょっとすればこんな血痕を残すかもしれないが、常識的に考えて血ではない。
 ため息をつき、俺死体ごっこをしている馬鹿に近寄り、耳元でささやいた。
「どうやってお前、うちに入った」
戻る