黒いボーイズ 縦横切替
 率直に言えば暇だったのである。
 生れも育ちも東京の自分は、敢えて東京の観光地など回ったことはない。
 学校の社会科見学で無理矢理東京タワーに行かされたりしたことはあったが、それ以外は「観光として」行ったことはない。どこもここも日常の範囲であり、わざわざ見に行く必要を感じなかったし、何より田舎から来た人たちの靴底にくっついてきた土が、そこいらに落ちているようで嫌だった。
 だから、浅草になんとなく遊びに行ったのは特に理由はなかったし、敢えて理由をつけるならば浅草の隣にある河童橋で下らないキッチングッズでも買って家でもてあまそうと思っただけだ。
 率直に言えば、暇だったのである。
 浅草寺手前の区画はひどくごちゃごちゃしている。昼間っから酒を呑んでる人とか、物珍しそうに歩く外人さんとか、人力車とか、ともかく目茶苦茶だ。
 その目茶苦茶の中を、さっき買ったシリコン製のドーナツ型を振り回しながら歩く。
 浅草寺でもお参りして、人形焼きでも買い食いするかとぼんやり歩いていると、目の前に演芸場が見えた。
 演芸場など、寄席レベルに入ったことのない施設だ。一回くらい覗いてみてもおもしろそうだと思ったのは、ドーナツ型を振り回すのに飽きていたのもある。
 料金を払って中に入ると、なにやら既に芸が始まっていたらしい。楽器の音と話し声が聞こえる。女が四人舞台の上に立っていた。
 特徴的なのは、全員黒い服を着て、顔を黒く塗りつぶしていたことだった。
「なんだありゃ」
 思わず呟くと、隣のおばちゃんが、「ボーイズ芸っっていうんだよ」と教えてくれた。
 女四人なののいボーイズ芸とはこれいかに。
 舞台の漫談よりも気になって、寧ろそっちの方がネタかと気付くのに少しかかってしまった。
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