宇宙魚大戦 縦横切替
 我々は追われていた。
 ボロボロの船で星々の間を、できうる限りのスピードで逃げていた。初めのうちは、金属が悲鳴を上げるごとに震えていたが――誰が宇宙空間に放り出されたいと思うか――もう何年もこの調子だと、いい加減慣れてしまった。
 向こうは最新鋭の宇宙船で構成された戦艦で追いかけてきているはずなのに、一向に追いつく気配がない。窓の外には金地に白で縁取られた豪奢な宇宙船が見える。彼らには彼らの正義がある。正義の名の下に、我々を死滅させようとしているが、正義の名の下に、我々を容赦なく追い詰めることができないのである。それがこの、長期間にも及ぶ追いかけっこを生み出した。
「兄さん、まだあの船は追いかけてくるの」
 妹が後ろからやってきて、私が覗く窓から外を覗いた。小さなため息をつき、そっと廊下の壁にもたれかかった。
 船内は重力がきちんと制御されているが、妹がそばに立つといつも黄金に輝く薄いものがゆらゆらと揺れる。彼女の美意識だ。こんな状況でもちゃんと身だしなみに気をつけるのは、我が妹ながらあっぱれであった。
 それにしても、この追いかけっこはいつまで続くのか。我々は生まれたときから追われている。この船にいる同族は、私や妹と同じ年代のものばかりである。親世代は我々をこの船に乗せて逃がしたのだという。親世代がどうなったのかは、我々は知らない。
 たまたま最年長であった私が全体の指揮をとることになっている。初めは特に何も思いはしなかった。ややこしい係が割り振られた、くらいにしか思ってはいなかった。しかし続けていくうちに、ここにいる同族たちが幸せに過ごせるようにと思うようになってきた。私にも指揮官の自覚が出てきたということだろうか。
 真っ暗な廊下にぽつりぽつりと緑の非常灯が光る。明かりももう、何年も満足につけることができていない。明るい光の下に、もう一度、と思う。出来れば、一度も体験したことのない恒星の光の下に行きたいものだ。
 しかし、塗装をすることすらできないこの船ではその望みも果たされることはないのだろう。わかっていてもやはり、つらい。
 せめて、誰かが我々を助けてはくれないものか。我々の力だけでは、このまま生き続けることは出来ても、状況を改善することはできない。
「大変です! 指揮官!」
 私と妹が、それぞれ打開できない現状にため息をついていると、デッキから通信士が飛んできた。
「どうしたんだ」
「我々の進路、黒尽くめの艦隊が現れました!」
「な、なんだそれは!」
 私と妹は慌ててデッキへ走った。大きな窓の外には、報告通り黒尽くめの艦隊が存在していた。
 金と黒の間にはさまれた我々の船はひどく見すぼらしいことだろう。
「あ! 黒い艦隊、動きます」
 止まっているように見えた黒い艦隊は、一気にスピードを出した。そして、我々の頭上を飛び越えて、金の艦隊に飛び込んで行った。
 黒の艦隊は大きな口を開け、金の戦艦を飲み込んだ。あっと言う間の出来事だった。
 我々を何年も追い続けた金の戦艦が一瞬で消え去るとは、到底信じられないことであった。
「なんなんでしょう、あれは」
「なんにせよ、我々は助かったようだ」
 我々同族の間に、安堵の空気が広がったのはほんの一瞬だった。
「ああ!」
 黒の艦隊が一気に方向を変えると、こちらに向かってつっこんできた。
「兄さん!」
 妹がひれを揺らして私の腕に捕まった。大丈夫だと言ってやりたかったが、まちがいなくこれはもう、駄目だろう。私は痛いほど強く、目を閉じた。

 と、いうわけで、宇宙空間で追いかけっこをしていためだかと金魚を、からすが横から丸飲みしたのでありました。
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