不屈の営業 縦横切替
 俺は高給取り! ありとあらゆる手を使って、この給料を得るに至った不屈の高給取りさ!
 睡眠は四時間! 家はない。キャンピングカーで暮らしているから、会社まで徒歩ゼロ分。出張に行ってもいつもと同じ状態で暮らすことができるから、いつでも万全の体調で仕事に望める、理想的な企業戦士だ!
 今日の仕事も荒々しかった! まさか営業先の社長がブチ切れて、俺を窓の外に放り投げるとは思わなかった! さすが、筋肉隆々の社長! 身長は二メートルある!
「何言ぅとんじゃボケェ!」
 ドスのきいた声も社長らしい! 頬の傷も男らしい! 小指がないなんて、最先端のオシャレ! お勤めの間に写経を続けたから字も綺麗!
 褒めに褒めたが、俺の真心がわかってもらえなかったらしい。ガラスをまき散らしながら宙を舞ったとき、俺は、俺の営業力の足りなさを一秒反省した。
 だが、反省だけで終わる俺ではない! 空中で体制を整えて、ビルの壁面にかじりついた。こういうこともあろうかと、ロッククライミングは習得済みだ! タイルとタイルの間に指を入れて、ガシガシ登っていくと、こちらを覗き込む事務所の所員と目が合った。
「うわあああああ!」
 俺の不屈の営業に、感動したらしい! 何も腰を抜かすことなどないのに!
 さきほど落とされた窓から再び事務所に入る。
「な、なんでのぼってくるんじゃあ!」
「窓から落とされた事務所の、敷居を再びまたげるとは思っておりません! 落とされた窓から入るのが社会人としてのマナー!」
 肩からかけていた鞄から、クリアファイルをスタイリッシュに取り出す!
「サインを!」
 社長のテーブルに契約書をターンッ!
「お、おう」
 決まった! 俺の不屈の営業心が通じた瞬間だ! これこそが、営業の醍醐味!
 窓から俺を投げ捨てた瞬間、さっきの説明を忘れてしまったかもしれないため、もう一度契約の内容を説明する。顧客へのサービスは抜かりない! 営業として当然のことだ!
 契約は滞りなく済んだ。明日にはこの事務所に、三台目のカラーレーザープリンターが入るはずだ! 俺の知らない中間業者が三社ほど入って、上乗せしまくっているこのカラーレーザープリンターはかなりの高級品のはずだ! 今日もいいものを売りつけた!
 だがこれは、今日の営業のうちの、たった一件の出来事だ。他にも、腹を包丁で刺されかかったが、腹の回りに仕込んでおいた、つぶしたアルミ缶のおかげで怪我を免れたりもした。まあこんなことはいつものことだ。わざわざ言う程のことでもない。神聖なる土下座しているにも関わらず、頭を蹴り上げようとする不届き者に屈することなく、顔面で蹴りを受け止め、そのまま相手の足を地べたにつけ、おまけに靴もなめてやったことくらいなら、上司に話しても問題はないだろう。
 俺は高給取り! ありとあらゆる企業と契約を結ぶ。契約率百パーセントのやり手の企業戦士!
 俺の今の目標は、ベースアップ! 俺の高給は、時間外労働で成り立っている……。
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