未来の姿 縦横切替
 高校受験当日、更年期に差しかかったせいでやたらといらだつ母によって二時間も前に家を追い出された。家から徒歩十分の高校にたどりついても、案の定まだ校門は開いていなかった。
 二月上旬の今、朝の風はひどく冷たい。住宅地ど真ん中の高校の周りには店はなく、あっても小さな定食屋と本屋で、どちらも今は開いていない。せめてイートインのあるコンビニがあればよかったのに。このままでは風邪をひいてしまう。
 呆然としつつ、家に戻れない現実をどう受け止めようかと、とりあえず現実逃避で英語の単語帳を開いたが、寒いものは寒い。
 三十分後、やっと出勤してきた用務員さんに、「嘘だろ」という顔をされながらも校内に招き入れられた。
 既に昇降口に張り出されていた受験会場を指示する紙と自分の受験番号をみくらべ、三階の教室に入る。
 扉には鍵がなく、拍子抜けするくらいあっさり受験会場の教室に入る。カーテンがしまった薄暗い教室は、とんでもないミスさえなければ私の教室になるかもしれない教室だ。
 中学の教室と大してかわらない作りの教室を見渡し、明かりをつける。カーテンを開けるとやっと人心地ついたけど、やっぱり寒い。ストーブをみてみたら中学のものと同じなので申し訳ないけれどつけてしまう。公立は大体同じ設備だから迷うことがない。
 自分の受験番号の机に座り、荷物を置く。あと一時間半弱、私はここで“受験のための集合開始時間”を待たなくてはいけない。単語帳を見ていてもいいけれど、もう確認するようなこともない。なるようになれだ。
 机から立ち上がり、窓の外を眺める。誰もいない校内を確認し、黒板のチョークを手にとる。日直のところに自分の名前を書いてみる。近い未来の様子。誰かがやってくる前に、黒板消しでさっと消した。
戻る